私たちは、加齢による様々な病態のメカニズムを明らかにし
“元気に老いること”へ貢献したいと考えています

日本は世界の他の先進国よりも高齢者人口が増えつつあり、国民医療費の増大や労働人口の減少など様々な課題が山積しています。加齢に伴う疾患の一つに認知症がありますが、厚生労働省の2015年1月の発表によると、日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。今後さらに高齢化が進んでいくと、認知症やその他の加齢関連疾患の患者数が増加し、家族や社会生活に重大な負荷がかかることは確実です。したがって、加齢関連疾患の予防・治療法の新たな開発が早急に必要ですが、そのためには老化メカニズムに関する深く幅広い研究が重要となります。

初代 片渕俊彦教授、2020年から新たに本庄雅則を中心とする私たちの講座は、これまでの研究成果を踏まえてプラズマローゲンの新たな生理機能の理解を進めます。私たちは、加齢関連疾患のメカニズムを解明するために、特殊なリン脂質であるプラズマローゲンの生物学的役割に着眼して研究を行っています。このプラズマローゲンは、加齢によって減少することが知られていますが、これまでその生理学的機能はほとんど明らかになっていませんでした。私たちの研究室は、このプラズマローゲン研究の分野において世界を牽引するグループの一つです。
これまでに、プラズマローゲンの生合成調節によるプラズマローゲン恒常性維持システムを見出し、その異常によるミエリン形成の障害機構を小脳をモデルとして明らかにしました。また、神経炎症時のグリア細胞活性化予防、アミロイドβタンパク質の蓄積防止など、プラズマローゲンがとても大きな抗加齢効果を持つことを発見しました。これはアルツハイマー病の新たな予防・治療につながる重要な発見です。
実際に私たちの共同研究チームは、これらの基礎研究に基づき、世界で初めてプラズマローゲンをヒトに応用しました。その結果、アルツハイマー病(軽度、中等度、重度)と軽度認知障害(MCI)の治療に有効であることが海外の一流医学誌に掲載されました。
一方、私たちは、老化のメカニズムとして大変重要な概念である「脳疲労」に基づく研究や「脳-腸相関」についての研究、さまざまな臓器・組織に分布しているプラズマローゲンの役割を抗加齢効果の観点から明らかにする研究も行っています。これらの研究により、多くの人々が老いてもなお元気でいきいきと過ごすことができる未来社会を私たちは目指します。

プラズマローゲンはsn-1位にビニルエーテル結合を有する (点線赤四角)。

脳にはヘッドグループにエタノールアミンを有するプラズマローゲンが多く存在する。