プラズマローゲンは神経炎症を抑制する

神経炎症とは脳内にあるグリア細胞が活性化することを指し、グリア細胞が活性化すると周りの神経細胞が死滅し、神経変性や認知障害につながります。神経炎症はアルツハイマー病などの神経変性疾患において発症以前からも見られ、さらに、プラズマローゲンがアルツハイマー病患者の脳内と血中で減少しているという報告から、私たちはプラズマローゲンと神経炎症の関係性について研究しています。

この研究では、神経炎症を起こす物質であるLPS(リポ多糖)をマウスに腹腔内注射し、同時にプラズマローゲンを注射すると、マウスの海馬と大脳皮質において神経炎症が抑制されることを発見しました。LPS注射によってグリア細胞であるミクログリア細胞(緑)とアストロサイト(赤)が活性化されると数が増加し、形も大きくなるのですが、プラズマローゲンによってそれが抑えられています。炎症時に産出される炎症性サイトカインIL1-βとTNF-αもプラズマローゲンにより抑えられました。図はマウスの海馬の炎症性サイトカインの結果です。

また、LPSは脳内にアミロイドβを蓄積させることが分かっています。アミロイドβの蓄積はアルツハイマー病発症の現在の有力な仮説です。そこで私たちはLPSとプラズマローゲンの同時注射により、海馬と大脳基底核の神経細胞(赤)のアミロイドβの蓄積(緑)も抑制されることを発見しました。

さらに、プラズマローゲンを経口摂取した場合でも同じ効果が得られるかどうかを検証しました。3か月間マウスにプラズマローゲンを混ぜた水を飲ませ、その後LPS注射をすると、前述の実験と同様に神経炎症とアミロイドβの蓄積が抑制されました。さらに、マウスの記憶力も水迷路試験で検証しましたが、LPSで減衰した記憶力がプラズマローゲンを飲用すると回復することが分かりました。最近、私たちの共同研究者はプラズマローゲンがヒトアルツハイマー病の認知機能を改善するという研究報告を行ないました。

ここまで、プラズマローゲンの抗炎症効果は確認できましたが、そのメカニズムは分かっていませんでした。そこで、マウス由来BV2細胞株と初代ミクログリア細胞にLPS処理をすると、LPSの受容体であるToll様受容体4(TLR4・緑)のエンドサイトーシス(黄)が起こることを発見しました。炎症反応は、TLR4のエンドサイトーシスによりれる起こることが分かりました。

そこで、細胞に6時間プラズマローゲン前処理した後にLPS処理をしたところ、LPSによるTLR4のエンドサイトーシスが抑制されることを確認しました。プラズマローゲンはLPSによるTLR4のエンドサイトーシスを阻害することによって神経炎症を抑制することが分かったのです。